古物商の買取実務では、
「1万円未満なら本人確認は不要」
と覚えている方も多いでしょう。
この理解は原則としては間違いではありません。
古物を買い受ける場合、対価の総額が1万円未満であれば、原則として相手方の確認と買い取りに関する記録が免除されます。
ただし、すべての古物にこの1万円未満の免除が使えるわけではありません。
1万円未満でも本人確認と買い取り記録が必要になる7区分があります。
ココに注意
さらに2025年10月1日の古物営業法施行規則改正によって、その対象へ、
エアコンディショナーの室外ユニット・電気温水機器のヒートポンプ、電線、金属製グレーチング
の3区分が追加されました。
この記事では、2026年9月時点の古物営業法・古物営業法施行規則・警察庁の最新解釈運用基準を確認したうえで、
「自社の買い取りでは本人確認が必要なのか」
を判断できるところまで整理します。
なお、法令上は「相手方の真偽を確認するための措置」ですが、この記事では分かりやすく「本人確認」と表記します。
この記事で最初に押さえたいこと
1万円未満の買い取りは原則免除です。
しかし、7区分は1万円未満でも本人確認・買い取り記録が必要です。
2025年10月1日に3区分が追加されました。
室外ユニット等、電線、金属製グレーチングです。
1万円は商品1点ごとではありません。
一度に持ち込まれた物品の対価の総額で判断します。
通常の買い取りでは「品目→金額→対応」の順で見ると整理しやすくなります。
古物商の本人確認(1万円未満取引)は「品目→金額→対応」で判断する
通常の買い取りで最初に見るべきなのは、査定額だけではありません。
次の順番で考えると、2025年改正後の見落としを防ぎやすくなります。
STEP1 7区分に該当する古物か確認する
まず、買い取る物が古物営業法施行規則第16条第2項の7区分に該当するか確認します。
7区分に該当する通常の買い取りであれば、1万円未満でも本人確認と買い取り記録が必要です。
つまり、
「査定額が5,000円だから本人確認はいらない」
とは判断できません。
STEP2 7区分でなければ「対価の総額」を確認する
7区分に該当しない古物であれば、一度の取引における対価の総額を確認します。
1万円未満なら、原則として本人確認・買い取り記録は免除されます。
1万円以上なら、1万円未満を理由とする免除は使えません。
STEP3 必要な本人確認と記録を行う
本人確認等が必要な取引では、法令に沿った方法で相手方を確認し、必要な買い取り記録を残します。
ここで一つ別の例外があります。
自社が売却した物品を、その売却相手から直接買い戻す場合は、通常の仕入れとは別に本人確認義務が免除されます。
古物営業法第16条のただし書により、この場合は買い取り記録についても免除されます。
したがって、
「7区分なら、どんな取引でも必ず本人確認」
という覚え方も正確ではありません。
この記事では、以下、一般の売主から行う通常の買い取りを中心に説明します。
2025年10月改正で何が変わった?
2025年8月20日、「古物営業法施行規則の一部を改正する規則」が公布され、2025年10月1日に施行されました。
今回変わったのは、1万円未満でも本人確認等が免除されない古物の範囲です。
追加されたのは法令上、次の3区分です。
- エアコンディショナーの室外ユニット及び電気温水機器のヒートポンプ
- 電線
- グレーチング(金属製のものに限る)
改正前の4区分と合わせて、現在は7区分になっています。
つまり今回の改正は、
「1万円未満の買い取りが全部本人確認対象になった」
という改正ではありません。
1万円未満の原則的な免除は現在も残っています。
変わったのは、その免除が使えない物品の範囲が広がったことです。
「3区分追加」と「4品目追加」が混在する理由
今回追加された物を商品名で並べると、
室外ユニット、電気温水機器のヒートポンプ、電線、グレーチング
の4つに見えます。
しかし、古物営業法施行規則では、
「エアコンディショナーの室外ユニット及び電気温水機器のヒートポンプ」
が一つの号にまとめられています。
そのため、法令上は3区分追加、全体で7区分と整理するのが正確です。
1万円未満でも本人確認が必要な7区分
現在の古物営業法施行規則第16条第2項は、次の7区分を定めています。
| No. | 1万円未満でも対象となる古物 | 2025年改正 |
|---|---|---|
| 1 | 自動二輪車・原動機付自転車と一定の部分品 | 改正前から |
| 2 | エアコンディショナーの室外ユニット・電気温水機器のヒートポンプ | 追加 |
| 3 | 専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物 | 改正前から |
| 4 | 光学的方法により音又は影像を記録した物 | 改正前から |
| 5 | 電線 | 追加 |
| 6 | グレーチング(金属製のものに限る) | 追加 |
| 7 | 書籍 | 改正前から |
検索では「7種類」と表現されることもありますが、制度を正確に理解するなら法令上の7区分と考えると分かりやすいでしょう。
自社の商品は対象?迷いやすい境界を確認
実務では、7区分の一覧を覚えるだけでは足りません。
「目の前の商品がその区分に入るのか」
で迷うからです。
エアコンは室外ユニット単体でも対象
「エアコンディショナーの室外ユニット」とは、いわゆる室外機です。
警察庁の現行解釈では、室内機の有無にかかわらず、古物に該当する室外ユニットを買い受ける場合は本人確認等の対象です。
電気温水機器のヒートポンプも同じ区分に入ります。
電線は「ケーブルなら全部」ではない
電線は銅線・アルミ線など、素材だけで決まるものではありません。
警察庁は「送電を主目的とするもの」と整理しつつ、
LANケーブル、テレビ接続ケーブル、家庭用延長コード、充電ケーブルなどは、この規定上の「電線」には含まれないとしています。
したがって、
「線状の商品だから全部対象」
ではありません。
用途や商品としての性質まで確認する必要があります。
グレーチングは金属製が対象
グレーチングは、主として側溝などの排水施設のふたとして用いられる格子状の物です。
鉄製だけでなく、アルミなど金属製であれば対象となります。
一方、コンクリート製やFRP製は、この区分には含まれません。
バイクは一定の部分品も対象
自動二輪車・原動機付自転車は、本体だけではありません。
一定の部分品も対象です。
ただし、ねじ・ボルト・ナット・コードなどの汎用性のある部分品は除外されています。
ゲームソフトはPCゲームも含まれ得る
条文上は、
「専ら家庭用コンピュータゲームに用いられるプログラムを記録した物」
とされています。
現在の警察庁解釈では、家庭用ゲーム機向けだけでなく、パーソナルコンピュータ等で行うゲームソフトも含まれるとされています。
また、CDやカセットなど、媒体の形態だけで対象・対象外を決めるものではありません。
CD・DVD・ブルーレイなどの光学媒体
「光学的方法により音又は影像を記録した物」には、CD、LD、DVD、ブルーレイディスクなどが含まれます。
一方、カセットテープ、ビデオテープ、FD、MD、フラッシュメモリなどは、この区分には含まれないと警察庁は公開しています。
室外機・電線・グレーチングを扱う事業者は、より具体的な境界をこちらでも確認できます。
「1万円未満」は1商品ごとではなく取引総額で判断する
ここも非常に間違えやすいところです。
ポイント
警察庁の最新解釈では、「対価の総額」は、
一度に持ち込まれた物品の対価をすべて足し合わせた額
で判断するとされています。
商品1点ごとの査定額ではありません。
たとえば、
| 商品 | 査定額 |
|---|---|
| 商品A | 3,000円 |
| 商品B | 4,000円 |
| 商品C | 4,000円 |
| 合計 | 11,000円 |
なら、個々の商品はすべて1万円未満でも、対価の総額は11,000円です。
そのため、7区分以外の古物でも、
「全部1点1万円未満だから本人確認不要」
とは判断できません。
また「1万円未満」ですから、ちょうど1万円は免除基準の「1万円未満」には入りません。
1万円の判定では消費税を含めない
警察庁の2026年5月14日付け解釈運用基準では、この1万円には消費税を含めないとされています。
したがって、消費税を除いた対価の総額が1万円以上かどうかで確認します。
複数回に分ければ1万円未満になる?
警察庁は、実際に複数回に分けて持ち込まれ、それぞれの対価の総額が1万円未満なら、各回について免除となり得るとしています。
ただし、正当な理由なく取引を数回に分けようとする相手方については、不正品の疑いとの関係から警察官への申告義務が問題になる場合があるとも示しています。
したがって、
本人確認を避けるためだけに形式的に取引を分割する
という運用にしないことが重要です。
なお、7区分に該当する通常の買い取りでは、そもそも1万円未満という金額を理由とする免除は使えません。
本人確認では「住所・氏名・職業・年齢」を確認する
古物営業法第15条は、本人確認が必要な取引について、相手方の住所・氏名・職業・年齢を確認する方法などを定めています。
ここで重要なのは、
「身分証を見ること」そのものが目的ではない
ということです。
たとえば運転免許証で住所・氏名・年齢等を確認できても、通常、職業までは記載されていません。
自社の受付票や買取システムについて、
住所・氏名・職業・年齢まで必要な情報を確認できる運用になっているか
を見る必要があります。
宅配・ネット買取では本人確認書類のコピーだけでは足りない
インターネット、宅配、郵送などの非対面取引では、対面取引とは確認方法が異なります。
警視庁は、免許証等のコピーや住民票の写しを送ってもらうだけでは本人確認として足りないことを明示しています。
非対面取引を行っている場合は、自社が古物営業法施行規則で認められたどの確認方式を採用しているのかまで確認してください。
法人から宅配・オンライン等で買い取る場合は、法人名だけではなく実際の取引担当者の確認も問題になります。
7区分は本人確認だけでなく買い取り記録も必要
今回の検索では「本人確認」に目が向きやすいのですが、実務では記録までセットで考えることが重要です。
通常の買い取りで7区分に該当する場合、1万円未満でも、
- 相手方の確認
- 買い取りに関する帳簿等への記載・記録
が必要です。
参考
古物営業法第16条では、買い取り等の際に、取引年月日、品目・数量、特徴、相手方に関する事項、本人確認方法などを記録する仕組みが定められています。
したがって、
「身分証を確認するようにしたから改正対応は終わり」
ではありません。
本人確認と取引記録を、一つの買取フローとして見直す必要があります。
帳簿の公式様式は警視庁でも確認できます。
改正後の買取フローで見直したいポイント
2025年改正を知識だけで終わらせず、自社の買取現場へ落とし込むなら、最低限、次を確認してみてください。
- 自社が7区分の古物を扱っているか
- 2025年に追加された室外ユニット等・電線・金属製グレーチングを担当者が把握しているか
- 「1万円未満なら全部不要」というマニュアルが残っていないか
- 7区分以外では1点の価格ではなく取引総額で判定しているか
- 本人確認が必要な取引で住所・氏名・職業・年齢を確認できているか
- 非対面買取で法令上認められた確認方法を採用しているか
- 本人確認と買い取り記録が連動しているか
- 判断に迷う商品を誰が、どの資料で確認するか決まっているか
特に、改正前から
「1万円未満=本人確認不要」
だけで現場を運用していた事業者は、品目確認を先に入れる必要があります。
壊れた室外機や切断された電線は「古物」なのか
ここから先は、2026年現在、非常に重要なお話です。
警察庁の最新解釈運用基準では、本来の用途で客観的に使用できなくなった廃製品は、原則として古物に該当しないと整理されています。
しかし、
「古物でない=規制がない」
という意味ではありません。
注意ポイント
室外機や電線などが本来の用途で使用できなくなっている場合、その素材や状態によっては、2026年6月1日に関係規定が施行された金属盗対策法上の特定金属くずに該当する可能性があります。
警察庁は、
本来の用途で使用できるものは古物、使用できないものは特定金属くずに該当し得る
という境界を示しています。
したがって、壊れた室外機や切断された電線を扱う場合は、
まず「古物かどうか」を確認し、その後に必要なら金属盗対策法を確認します。
古物そのものの考え方から確認したい方はこちらです。
古物と特定金属くずの違い、古物商許可と特定金属くず買受業の違いはこちらで詳しく整理しています。
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古物商許可を持ち、金属スクラップや銅線などを買い取っている事業者にとって、気になるのは次の疑問ではないでしょうか。 「古物商許可を持っていれば、特定金属くず買受業の届出はしなくてもよいのか?」 結 ...
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よくある質問
1万円未満なら本人確認はしなくてよいですか?
原則として、7区分以外の古物で対価の総額が1万円未満なら、本人確認等は免除されます。
しかし、施行規則第16条第2項の7区分は、通常の買い取りでは1万円未満でも本人確認・買い取り記録が必要です。
2025年10月から、すべての1万円未満取引で本人確認が必要になったのですか?
いいえ。
改正後も1万円未満の原則免除は残っています。
2025年10月改正は、その免除が使えない対象へ3区分を追加したものです。
「7区分」なのに室外機とヒートポンプを分けると8つになりませんか?
室外ユニットと電気温水機器のヒートポンプは、施行規則第16条第2項第2号の一つの区分として定められています。
そのため法令上は全体で7区分です。
1万円は商品1点ごとに判断しますか?
いいえ。
一度に持ち込まれた物品の対価の総額で判断します。
また、警察庁の現行解釈では消費税を含めません。
自社で販売した商品を同じお客様から買い戻す場合は?
自己が売却した物品を、その売却相手から直接買い受ける場合には、本人確認・買い取り記録について別の法定免除があります。
第三者を介した取引などまで同じ扱いになるとは限らないため、「誰に売り、誰から直接買い戻すのか」を確認してください。
このケーブルが「電線」に入るか分かりません
商品名だけでなく、
用途、構造、流通上の商品類型、現在の状態
を確認します。
警察庁はLANケーブル、テレビ接続ケーブル、一般的な延長コード、充電ケーブルなどをこの規定上の「電線」から除外しています。
なお、切断等によって本来の用途で使えなくなっている場合には、古物ではなく特定金属くず側の確認が必要になる可能性があります。
まとめ|「1万円未満」だけで判断せず、品目から確認する
2025年10月1日の古物営業法施行規則改正によって、1万円未満でも本人確認・買い取り記録が必要となる対象に、
室外ユニット・電気温水機器のヒートポンプ、電線、金属製グレーチング
の3区分が追加されました。
改正前からの4区分と合わせて、現在は7区分です。
通常の買い取りでは、
1.まず7区分に該当するか確認する
↓
2.該当しなければ、一度の取引総額が1万円未満か確認する
↓
3.必要なら法令に沿った本人確認と買い取り記録を行う
という順番で考えると整理しやすくなります。
さらに、自社が売却した物品をその売却相手から直接買い戻す場合には、別の免除があります。
そして室外機や電線が壊れて本来の用途で使えない場合には、今度は古物営業法だけでなく金属盗対策法側の確認が必要になることがあります。
重要なのは、
「1万円未満だから不要」
「7区分だから何があっても必要」
と一つの条件だけで結論を出さないことです。
品目 → 金額 → 取引の性質 → 必要な対応
まで確認して、実際の買取フローへ落とし込みましょう。
自社の取扱品・取引形態への当てはめに迷う方へ
制度の一般ルールが分かっても、実際の事業では、
「このケーブルは電線なのか」
「この室外機はまだ古物なのか、それとも金属くずなのか」
「店頭と宅配で本人確認方法をどう分ければよいのか」
「今の受付票や帳簿で確認事項が足りているのか」
といった自社固有の問題が残ることがあります。
この段階では、単に条文をもう一度読むより、
取扱商品、商品の状態、買取方法、本人確認方法、現在の記録方法
を一度整理すると、何を確認すべきか見えやすくなります。
サクセスファン行政書士事務所では、古物商許可をはじめとする許認可業務と、それに関連するコンサルティング業務を案内しています。
自社の取扱品・取引形態について個別整理が必要な方は、対応できる相談内容を確認したうえでご相談ください。


