特定金属くず買受業の届出を済ませても、それだけで買取業務の準備が終わるわけではありません。
実際に特定金属くずを買い受けるときには、
本人確認
→ 本人確認記録
→ 取引記録
→ 保存
という一連の対応が必要です。
ここで特に区別しておきたいのが、「本人確認記録」と「取引記録」です。
本人確認記録は、簡単にいえば「誰を、どのように本人確認したか」を残す記録です。
一方、取引記録は「誰から、いつ、何を、いくらで、どのように買い取ったか」を残す記録です。
さらに、古物営業で使われることのある「1万円未満なら本人確認不要」という考え方を、そのまま特定金属くず買受業へ当てはめることもできません。
この記事では、1件の買取を受け付けてから記録を保存するまでを、実際の業務順に沿って整理します。
制度全体の最新情報は、警察庁の公式ページから確認できます。
この記事のポイント
1.少額取引でも原則として本人確認が必要です
特定金属くず買受業には、「1万円未満だから本人確認不要」という一般的な金額基準による免除はありません。
2.法人取引では、実際の取引担当者も確認します
法人そのものの確認に加えて、実際に取引の任に当たる自然人についても本人確認が必要です。
3.本人確認記録と取引記録は別の義務です
本人確認をしたら本人確認記録を、買受けをしたら取引記録を、それぞれ直ちに作成します。
4.記録は原則として買受けの日から3年間保存します
紙だけでなく、電磁的記録でも作成・保存できます。
特定金属くずの買取は「本人確認→記録→保存」で考える
1件の買取では、次の順番で考えると整理しやすくなります。
- 相手が個人か法人か確認する
- 本人確認が必要か判断する
- 所定の方法で本人確認する
- 本人確認記録を作成する
- 買取内容について取引記録を作成する
- 記録を保存する
- 盗品由来の疑いがあれば警察官へ申告する
大切なのは、身分証を確認したところで業務を終わらせないことです。
相手を確認すること、本人確認の内容を記録すること、実際の買取内容を記録することは、それぞれ役割が異なります。
本人確認から記録までの公式説明をまとめて確認したい場合は、奈良県警の現行ページが分かりやすく整理されています。
特定金属くずの本人確認は誰について行う?
最初に見るのは、誰から買い受けるのかです。
個人から買い取る場合
自然人について確認する本人特定事項は、
- 氏名
- 住居
- 生年月日
です。
法人から買い取る場合
法人については、
- 法人の名称
- 本店または主たる事務所の所在地
を確認します。
ただし、法人を確認するだけでは終わりません。
実際に取引を担当する人など、取引の任に当たる自然人が別にいる場合は、その人についても本人確認が必要です。
したがって法人取引は、
法人の確認
+
実際の取引担当者の確認
と考えると分かりやすくなります。
会社の登記事項だけを確認して、持ち込んだ担当者について何も確認しないという運用にはしないよう注意してください。
1万円未満でも本人確認は必要?
原則として必要です。
特定金属くず買受業には、買受価格が一定額未満だから本人確認不要になるという一般的な金額免除は設けられていません。
古物商としてすでに営業している事業者は、特に混同しやすいところです。
「今回は5,000円だから確認しなくてもよい」
とは考えず、その取引が特定金属くずの買受けなのかを基準に処理します。
古物商許可でできる取引と、別制度の確認が必要になる取引を整理したい場合はこちらの記事へ進めます。
対面取引ではどのように本人確認する?
個人との対面取引では、代表的には、
- 運転免許証
- 在留カード
- 特別永住者証明書
- 顔写真付きマイナンバーカード
などを利用する本人確認方法があります。
重要なのは、身分証を見るだけで終わらないことです。
所定の方法で本人確認し、続けて本人確認記録を作ります。
代表的な本人確認書類の提示方式では、本人確認書類の写しも本人確認記録の添付資料になります。
実際の受付業務では、
本人確認書類を確認する
→ 必要な写し等を残す
→ 何を使って誰を確認したのか記録する
までを一つの業務として考えると分かりやすくなります。
本人確認方法を具体的に確認したい場合はこちらです。
非対面取引は身分証画像を送ってもらうだけでは足りない
宅配買取やオンラインなどの非対面取引では、対面とは異なる本人確認方法が定められています。
たとえば、
- 所定の方法で撮影した本人確認書類画像と本人の容貌画像を利用する方法
- 本人確認書類のICチップ情報と容貌画像を利用する方法
- 所定の電子証明書を利用する方法
などがあります。
したがって、
「免許証をスマートフォンで撮影してメールで送ってもらえば完了」
とは限りません。
非対面買取を行う場合は、自社が採用しようとしている確認方法が法令上認められた方法に当たるか、公式資料で確認してください。
非対面本人確認は方法が複数あるため、一般論を覚えるより、自社が実際に採用する方法を確認する方が実務的です。
常連客なら2回目から本人確認しなくてよい?
常連客だからという理由だけでは省略できません。
過去に本人確認を行った相手との再取引では、一定の条件を満たす場合に本人確認を省略できる仕組みがあります。
主なポイントは、
- 過去に本人確認記録がある
- 過去に確認した相手と同一であることを確認する
- 代金をその相手の預金・貯金口座へ振り込む
ことです。
そのため、
「顔を知っているから、今回は何もしなくてよい」
という制度ではありません。
持込みのたびに現金で代金を支払う取引では、原則としてその都度本人確認が必要です。
また、再取引の特例を利用して本人確認を省略した場合でも、記録義務までなくなるわけではありません。
「本人確認を省略できる」と「何も記録しなくてよい」は別の話です。
本人確認後は本人確認記録を直ちに作成する
本人確認を行った場合は、直ちに本人確認記録を作成します。
本人確認記録は、
- 文書
- 電磁的記録
のどちらでも作成できます。
全国共通の固定された一つの様式が定められているわけではありません。
本人確認方法に応じて必要事項を記録します。
代表的には、
- 本人確認を行った担当者
- 本人確認記録を作成した担当者
- 本人確認書類等の提示・送付等を受けた日
- 本人確認方法
- 使用した本人確認書類の種類・番号等
- 相手方の本人特定事項
- 別の取引担当者がいる場合は、その担当者の本人特定事項
などです。
「19項目すべてを全取引で一律に書く」という意味ではなく、本人確認方法に応じて必要な事項を記録します。
本人確認書類のコピーだけ残せばよい?
本人確認書類の写しを保存したからといって、本人確認記録自体が不要になるわけではありません。
ただし、本人確認記録に添付する資料にすでに記載されている一定事項については、重複記載を省略できる場合があります。
したがって実務では、
本人確認記録
+
本人確認方法に応じた添付資料
として管理する考え方が分かりやすいでしょう。
コピーがあるから帳票は何も書かなくてよい、とは判断しないでください。
本人確認記録と取引記録は何が違う?
両者は、法律上も別の記録義務です。
| 記録 | 主な役割 |
|---|---|
| 本人確認記録 | 誰を、どの方法で本人確認したか |
| 取引記録 | 誰から、いつ、何を、いくらで、どう支払って買ったか |
つまり、
本人確認記録=人の確認
取引記録=買取そのものの記録
です。
ここを分けて考えると、社内帳票も設計しやすくなります。
取引記録には何を書く?
特定金属くずを買い受けた場合には、取引記録を直ちに作成します。
基本的には、
- 買受け相手方の氏名または名称
- 買受けの日付・時刻
- 特定金属くずの量
- 特定金属くずの特徴
- 価額
- 代金の支払方法
- 本人確認を省略できる一定の再取引では、口座を特定するために必要な事項
を記録します。
取引記録の公式な説明はこちらで確認できます。
「量」は重量で記録する
取引記録上の量は、重量で記録します。
「特徴」は何を買い取ったのか分かるようにする
たとえば、
- 銅線
- 銅板
- 金属管
など、その特定金属くずを識別できる形状等を記録します。
支払方法も記録する
現金で支払ったのか、口座振込なのかも記録します。
つまり取引記録は、単なる金銭帳簿ではなく、
「いつ、誰から、何を、どの条件で買い取ったか」を後から追える状態
にするための記録です。
取引記録は月末にまとめて書かない
取引記録は、買受けを行った場合に直ちに作成する必要があります。
1週間分や1か月分をまとめて後から記録する運用にはしないようにしましょう。
店舗やヤードでは、
本人確認
→ 査定・買取
→ 本人確認記録
→ 取引記録
→ 支払い・保存
という一連の流れにしておくと、記録漏れを防ぎやすくなります。
記録は紙でも電子データでも作成できる
本人確認記録・取引記録は、
- 文書
- 電磁的記録
のどちらでも作成できます。
新しい専用システムを必ず導入しなければならない制度ではありません。
また、全国共通の固定様式もありません。
ただし、
「様式自由」=「記録項目も自由」
ではありません。
必要事項は漏れなく記録する必要があります。
「実際にはどんな帳票を作ればよいのか」を確認したい場合は、警察が公開している参考用帳票が役立ちます。
全国の制度・様式・本人確認記録等をまとめて確認したい場合は、山口県警のページからも関係資料へ進めます。
本人確認記録と取引記録を1枚にまとめてもよい?
本人確認記録と取引記録は、それぞれ法律上別の記録義務です。
一方で、どちらにも全国共通の固定様式はありません。
ただし、今回確認した全国向け公式資料では、
「一つの帳票へまとめれば必ず問題ない」
という明示的な全国共通回答までは確認できません。
一つの受付票やシステムで管理したい場合は、
- 本人確認記録に必要な事項
- 取引記録に必要な事項
をそれぞれ漏れなく管理できるか確認したうえで、必要に応じて管轄警察へ確認してください。
古物商の帳簿をそのまま使ってよい?
古物商と特定金属くず買受業の両方を営んでいる場合、既存の古物台帳を利用したくなるかもしれません。
しかし、古物営業法上の帳簿と、金属盗対策法上の本人確認記録・取引記録では、必要事項が同一とは限りません。
そのため、
「古物台帳があるから、特定金属くず側の記録も自動的に満たす」
とは判断しないでください。
まず、それぞれの制度がどの取引に関係するのか整理します。
古物そのものの意味を確認したい場合はこちらです。
古物商許可でできること・別制度の確認が必要なことを整理したい場合はこちらです。
記録は買受けの日から3年間保存する
本人確認記録は、その本人確認に係る買受けが行われた日から3年間保存します。
取引記録についても、その買受けの日から3年間です。
つまり、単に「3年間」と覚えるだけではなく、
どの買受けの日から3年を数えるのか
まで管理できるようにします。
電子データの場合も、削除時期を管理できるようにしておくと分かりやすいでしょう。
現場では1件の買取フローにしておく
法律の条文ごとにルールを覚えるより、実際の店舗・ヤードでは一つの業務フローとして整理する方が運用しやすくなります。
STEP1 相手方を確認する
個人か法人か。
法人の場合は、実際の取引担当者も確認します。
STEP2 本人確認する
取引形態に合った方法で本人確認します。
「少額だから」「常連だから」という理由だけでは省略しません。
STEP3 本人確認記録を作成する
誰を、いつ、どの方法で確認したのかを直ちに残します。
STEP4 取引記録を作成する
日時、重量、特徴、価額、支払方法等を直ちに記録します。
STEP5 保存する
買受けの日を基準に原則3年間保存します。
STEP6 不審な場合は警察官へ申告する
盗品由来の疑いがある場合は、通常処理のまま終わらせません。
盗品の疑いがある場合は直ちに警察官へ申告する
取引態様その他の事情から、買い受けようとする特定金属くずが盗難特定金属製物品に由来する疑いがあると認めた場合は、直ちに警察官へ申告する必要があります。
たとえば、
- 初めて取引する個人が大量に持ち込む
- 本人確認書類に不自然な点がある
- 被害情報と持ち込まれた物品等が一致する
といった事情が考えられます。
事業者自身が捜査して盗品と確定する必要がある、という意味ではありません。
疑いを認めた場合に警察へつなぐ
という運用を準備しておくことが重要です。
営業開始前に最低限決めておきたいこと
営業前には、少なくとも次を社内で整理しておくと運用しやすくなります。
- 誰が本人確認するか
- 対面・非対面でどの確認方法を使うか
- 本人確認記録をどこへ残すか
- 取引記録をどこへ残すか
- 紙か電子データか
- 誰が記録漏れを確認するか
- 3年間の保存期限をどう管理するか
- 不審な取引があった場合に誰が警察へ連絡するか
複数の従業員が買取を担当する場合は、担当者ごとに運用が変わらないよう、同じ1件の買取フローを共有しておくことが大切です。
よくある質問
1万円未満でも本人確認は必要ですか?
原則として必要です。
特定金属くず買受業では、1万円未満だから本人確認不要という一般的な金額免除はありません。
常連客でも毎回本人確認しますか?
単に常連という理由だけでは省略できません。
過去の本人確認記録があり、同一人物等であることを確認し、本人名義口座への振込み等の条件を満たした再取引では、省略できる場合があります。
法人の場合は会社だけ確認すればよいですか?
いいえ。
法人についての確認に加えて、実際に取引の任に当たる自然人についても本人確認が必要です。
Excelで記録してもよいですか?
電磁的記録による作成・保存は可能です。
ただし、必要な記録事項を漏れなく管理してください。
本人確認記録と取引記録は同じですか?
異なります。
本人確認記録は本人確認の内容、取引記録は実際の買受け内容を残す記録です。
記録は何年間保存しますか?
本人確認記録・取引記録とも、原則として対象となる買受けの日から3年間です。
本人確認・取引記録は営業開始前に運用まで決めておく
特定金属くず買受業では、「本人確認が必要」という知識だけでは足りません。
実際には、
相手を確認する
→ 本人確認する
→ 本人確認記録を作る
→ 取引記録を作る
→ 3年間保存する
ところまでが一連の営業実務です。
自社で対応できる場合は、警察の公式資料や参考帳票を確認し、営業開始前に運用を整えてください。
一方で、
- まだ営業開始届出そのものを済ませていない
- 必要書類や図面の準備から整理したい
- 古物商許可と特定金属くず買受業の両方が関係する
- 複数営業所がある
- どの届出・許認可を先に進めるべきか整理しにくい
という場合には、本人確認・記録の準備より先に、営業開始に必要な手続全体を整理することが重要です。
特定金属くず買受業の届出から任せたい方へ
自分で届出できる場合は、警察の公式様式を確認しながら進めることができます。
一方、必要書類や営業所・保管場所の整理、古物商との関係なども含めて、
「自分の場合に必要な手続を整理したうえで、届出を進めたい」
という方は、行政書士による届出代行を利用する方法もあります。
次のサービスページでは、特定金属くず買受業の届出を行政書士へ依頼したい方向けに、サービス内容・依頼の流れ・費用などを確認できるようにします。
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参考特定金属くず買受業の届出代行|行政書士に手続きを任せたい方へ
特定金属くず買受業を始める場合は、営業開始前に届出が必要です。 ただし、準備するのは営業開始届出書だけではありません。個人・法人に応じた証明書類に加えて、営業所や特定金属くず保管場所の平面図、周囲の略 ...
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自力で進めるか、代行を利用するかは、必要な作業量や自社の状況を確認したうえで選んでください。
届出を済ませることと、営業開始後の本人確認・記録体制を整えること。この両方がそろって、特定金属くず買受業を実際に運用できる状態になります。

