金やプラチナ、宝石、ジュエリーなどの中古品を扱う古物商では、古物営業法だけでなく、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)への対応も確認する必要があります。
このテーマで特に誤解しやすいのが、
「現金で200万円を超える取引だけ対応すればよい」
という考え方です。
確かに、宝石・貴金属等取扱事業者では、代金の支払が現金で200万円を超える売買が通常の「対象取引」として重要です。
しかし、200万円は犯罪収益移転防止法上のすべての義務を一括して決める境界線ではありません。
200万円以下の取引等でも「特別の注意を要する取引」に該当すれば取引時確認の対象となる可能性があり、疑わしい取引の届出も金額だけで判断する制度ではありません。警察庁の2026年8月7日時点の最新概要でも、この区別が明確にされています。
そのため、貴金属等を扱う古物商は、
自社が対象か
→ どの商品を扱っているか
→ どのような取引か
→ その取引ではどの義務が関係するか
の順番で確認することが大切です。
この記事のポイント
1.古物商なら全員が対象になるわけではない
古物である貴金属等の売買業務を行う古物商が、犯罪収益移転防止法上の特定事業者になります。警察庁は「特定古物商」として案内しています。
2.買取だけ、販売だけでも「売買」に含まれる
公的資料では、ここでいう「売買」には、売却または買受けのいずれか一方だけを行う場合も含むと明示されています。買取専門だから対象外、販売だけだから対象外、とはいえません。
3.200万円は重要だが、すべての義務の境界線ではない
現金200万円超は通常の対象取引を判断する重要な基準ですが、200万円以下でも取引態様によって取引時確認が必要になる場合があります。
4.本人確認だけでは終わらない
取引時確認、確認記録、取引記録、疑わしい取引の届出、取引時確認等を的確に行うための措置を分けて理解する必要があります。
貴金属を扱う古物商は犯罪収益移転防止法の対象になる?
すべての古物商が、貴金属等に関する犯罪収益移転防止法の対象になるわけではありません。
対象になるのは、古物である貴金属等の売買業務を行う古物商です。
ここでいう「売買」には、売却と買受けの両方を行う場合だけでなく、売却または買受けのどちらか一方だけを行う場合も含まれます。
つまり、たとえば貴金属等の中古品について、
- 主に一般顧客から買い取る古物商
- 主に中古品を販売する古物商
であっても、「片方しかしていない」という理由だけで対象外にはなりません。
最初に見るべきなのは、単に古物商許可を持っているかではなく、
「自社が古物である貴金属等を業として売却または買い受けているか」
です。
犯罪収益移転防止法上の「貴金属等」とは?
対象となる「宝石・貴金属等」には、主に次のものが含まれます。
- 金、白金、銀およびこれらの合金
- ダイヤモンドその他の貴石・半貴石
- 真珠
- これらの製品
したがって、金地金・プラチナ地金だけを考えればよいわけではありません。
金やプラチナを使用した指輪・ネックレス、宝石や真珠を使ったジュエリーなども対象になり得ます。
自店の商品が該当するか分かりにくい場合は、商品名だけで判断せず、素材や製品内容から確認するとよいでしょう。
「現金で200万円を超える取引」は何の基準?
宝石・貴金属等取扱事業者について、通常の対象取引として定められているのは、
代金の支払が現金で200万円を超える宝石・貴金属等の売買
です。
しかし、
200万円超=犯収法の対象
200万円以下=犯収法の対象外
という意味ではありません。
ここを分けて理解することが、この記事で最も重要です。
200万円以下でも取引時確認が必要になる場合がある
犯罪収益移転防止法では、通常の「対象取引」以外にも、
- マネー・ローンダリングの疑いがあると認められる取引
- 同種の取引と比べて著しく異なる態様で行われる取引
を「特別の注意を要する取引」としています。
警察庁は、敷居値以下の取引であっても、こうした取引に該当する可能性があると明示しています。
そのため、
「今回は200万円以下だから、取引時確認について考えなくてよい」
とは一律に判断できません。
取引を分ければ200万円以下になる、とは限らない
一回当たりの金額を小さくするため、一つの取引を分割していることが一見して明らかな場合は、一つの取引として扱われます。
1回ごとの支払金額だけではなく、一連の取引としてどう見えるかも確認する必要があります。
まずは取引ごとに義務を分けて考える
実務では「犯収法の本人確認が必要か」だけを考えるより、次のように義務を分けた方が理解しやすくなります。
| 取引の状況 | 取引時確認 | 確認記録 | 取引記録 | 疑わしい取引 |
|---|---|---|---|---|
| 現金200万円超の通常の売買 | 必要 | 必要 | 必要 | 別途判断 |
| 200万円以下・現金以外の通常取引 | 金額基準だけでは通常の対象取引ではない | 取引時確認をしなければ通常は発生しない | 犯収法上は「少額の取引等」として除外 | 金額とは別に判断 |
| 特別の注意を要する取引 | 200万円以下等でも必要になり得る | 取引時確認をした場合は必要 | 金額・支払方法による除外を別途確認 | 疑いがあれば届出を検討 |
警察庁の最新概要では、宝石・貴金属等取扱事業者について、**現金200万円超の売買取引以外は、取引記録の作成・保存を要しない「少額の取引等」**として整理されています。
一方、取引時確認は「特別の注意を要する取引」によって200万円以下でも発生し得ます。
つまり、
取引時確認の要否と、取引記録の要否を同じ基準で考えない
ことが重要です。
取引時確認では何を確認する?
通常の特定取引で顧客が個人の場合には、主に、
- 本人特定事項
- 取引を行う目的
- 職業
を確認します。
法人の場合には、
- 本人特定事項
- 取引を行う目的
- 事業の内容
- 実質的支配者
などが確認対象になります。
そのため、
「運転免許証などを見れば終わり」
という制度ではありません。
古物営業法上の本人確認と似て見えますが、確認する内容や対象となる取引が異なります。
取引時確認をしたら「確認記録」を作成・保存する
取引時確認を行った場合には、直ちに確認記録を作成する必要があります。
確認記録は、原則として特定取引等に係る契約が終了した日等から7年間保存します。
ここは「7年間」という数字だけではなく、いつから7年を数えるのかも重要です。
確認記録は、本人確認書類のコピーだけを意味するものではありません。
本人特定事項のほか、取引目的、職業・事業内容、法人であれば実質的支配者、確認方法等について記録します。
「取引記録」は確認記録とは別の記録
取引記録は、取引時確認の内容ではなく、取引そのものについて残す記録です。
宝石・貴金属等取扱事業者について、警察庁の現行整理では、
代金の支払が現金で200万円を超える宝石・貴金属等の売買取引
以外は、取引記録等を作成・保存する必要がない「少額の取引等」に含まれます。
対象となる取引記録は、取引が行われた日から7年間保存します。
したがって保存期間を整理すると、
確認記録
→ 契約が終了した日等から7年間
取引記録
→ 取引が行われた日から7年間
です。
どちらも「7年」ですが、起算点まで同じではありません。
疑わしい取引は「200万円を超えたか」では判断しない
犯罪収益移転防止法には、疑わしい取引の届出があります。
特定業務に係る取引について、
- 収受した財産が犯罪による収益である疑い
- 顧客等がマネー・ローンダリングを行っている疑い
があると認められる場合には、届出が必要になります。
ここでは、
「200万円を超えているから疑わしい」
「200万円以下だから疑わしくない」
という判断はしません。
警察庁も、疑わしい取引について「いくら以上の現金取引」「何回以上の取引」といった画一的な基準を定めることはできないと説明しています。
顧客の属性、取引態様、過去の取引、取引時確認で得た情報との整合性などを踏まえて判断します。
店舗として事前に何を決めておけばよい?
犯罪収益移転防止法への対応は、高額な取引が発生してから初めて考えるより、あらかじめ店舗内で整理しておく方が対応しやすくなります。
たとえば、
- どの取引で取引時確認が必要か
- 誰が確認するか
- 何を確認するか
- 確認記録をどう残すか
- 取引記録をどう残すか
- 不自然な取引があった場合に誰が判断するか
- 判断できない場合にどこへ確認するか
などです。
犯罪収益移転防止法第11条関係では、取引時確認をした事項に係る情報を最新に保つための措置が必要です。
一方、使用人への教育訓練、規程の作成、リスク評価、統括管理者の選任等については、警察庁の現行概要では努力義務と整理されています。
したがって、
公的資料に並んでいる対策がすべて同じ強さの義務である
と考えるのも正確ではありません。
古物営業法の本人確認と犯罪収益移転防止法は別に考える
貴金属等を扱う古物商が特に混乱しやすいのが、
「古物営業法ですでに本人確認しているから、犯収法も対応できているのでは?」
という点です。
古物営業法と犯罪収益移転防止法では、確認が必要になる場面や確認内容が異なります。
| 比較する点 | 古物営業法 | 犯罪収益移転防止法 |
|---|---|---|
| 主な場面 | 古物の買受け・交換等 | 特定事業者による特定取引等 |
| 主な確認事項 | 住所・氏名・職業・年齢等 | 本人特定事項、取引目的、職業・事業内容、実質的支配者等 |
| 記録 | 古物営業法上の帳簿等 | 確認記録・取引記録 |
| その他 | 不正品の疑いがある場合の申告等 | 疑わしい取引の届出等 |
したがって、
古物営業法で本人確認をした
=
犯罪収益移転防止法の確認も自動的に完了した
とは限りません。
実務では、一つの取引について、
古物営業法では何が必要か
と
犯罪収益移転防止法では何が必要か
を別々に確認したうえで、重なる業務を店舗内で整理するのが分かりやすいでしょう。
自分の店では5段階で確認する
制度の条文順に考えるより、次の順番で自店へ当てはめると整理しやすくなります。
1.古物の貴金属等を扱っているか
金、白金、銀、その合金、宝石、真珠、それらを使用した製品があるか確認します。
2.売却または買受けを業として行っているか
買受けだけ、売却だけでも「売買」には含まれます。
「買取専門だから対象外」とは考えません。
3.金額と支払方法を確認する
現金で200万円を超える取引か確認します。
ただし、200万円以下ならそこで確認を終了するのではなく、取引態様等も見ます。
4.義務を一つずつ判定する
- 取引時確認
- 確認記録
- 取引記録
- 疑わしい取引の届出
- 店舗内の管理
を別々に確認します。
5.古物営業法上の対応と照合する
現在行っている本人確認や帳簿管理について、
そのまま共通して使える部分
と
犯罪収益移転防止法として追加で確認する部分
を整理します。
判断フロー
自店の確認は、次のように考えると分かりやすくなります。
古物である貴金属等を売却・買受けしているか?
↓
はい
↓
犯罪収益移転防止法上の特定古物商として確認
↓
現金で200万円を超える売買か?
はい
→ 通常の対象取引として、取引時確認・確認記録・取引記録を確認
いいえ
→ 「対応不要」で終了しない
→ 特別の注意を要する取引等に該当しないか確認
そして金額にかかわらず、
疑わしい取引に当たる疑いがないか
は別に判断します。
このように、200万円は途中の分岐であって、犯収法対応全体の終了ラインではありません。
判断に迷ったときは何を整理して確認する?
個別の取引について判断できない場合は、相談・問い合わせの前に、
- 商品は何か
- 古物か
- 売却か買受けか
- 取引金額
- 支払方法
- 顧客が個人か法人か
- 代理人・担当者がいるか
- 店頭か非対面か
- どの義務について判断に迷っているか
を整理すると確認しやすくなります。
特定古物商については警察庁が専用の案内を設けています。
また、警察庁JAFICでは、2026年8月7日時点の「犯罪収益移転防止法の概要」が最新資料として公開されています。
FAQ
200万円以下なら犯罪収益移転防止法への対応は不要ですか?
一律に不要とはいえません。
現金で200万円を超える宝石・貴金属等の売買は通常の対象取引ですが、200万円以下でも「特別の注意を要する取引」に該当すれば、取引時確認が必要になる場合があります。
また、疑わしい取引の届出も200万円という金額だけで判断するものではありません。
買取専門の古物商でも対象になりますか?
古物である貴金属等を買い受けることを業として行っている場合は、買受けだけでも「売買」に含まれます。
「販売もしていなければ対象外」という意味ではありません。
貴金属を販売するだけでも対象になりますか?
はい。「売買」には売却だけを行う場合も含まれると公的資料で示されています。
銀製品やジュエリーも対象になりますか?
金・白金・銀およびその合金、宝石・真珠、これらの製品が対象です。
そのため、材質によっては銀製品やジュエリーも対象になります。
確認記録と取引記録は両方7年間保存ですか?
どちらも7年間ですが、起算点が異なります。
- 確認記録:特定取引等に係る契約が終了した日等から7年間
- 取引記録:取引が行われた日から7年間
と整理されています。
古物営業法で本人確認していれば十分ですか?
必ずしも十分とは限りません。
古物営業法と犯罪収益移転防止法では、対象取引や確認事項が異なるため、それぞれの条件を確認する必要があります。
まとめ|200万円だけでなく「取引」と「義務」を分けて確認する
貴金属等を扱う古物商が犯罪収益移転防止法へ対応するときに、最も避けたいのは、
「200万円以下だから関係ない」
という一つの数字だけでの判断です。
自店では、
- 古物である貴金属等を扱っているか
- 売却または買受けを業として行っているか
- 金額・支払方法・取引態様はどうなっているか
- 取引時確認・確認記録・取引記録・疑わしい取引をそれぞれ確認したか
- 古物営業法上の対応と犯収法上の対応を分けて整理したか
の順番で確認すると分かりやすくなります。
特に、
「買取だけだから対象外」
「200万円以下だから全部不要」
「古物営業法で本人確認したから全部対応済み」
という判断は避けましょう。
自社への当てはめが難しい場合
まず、自社の商品、売買方法、金額、支払方法、顧客区分を整理したうえで、管轄警察等の公的窓口へ確認する方法があります。
専門家への相談を検討する場合も、
「どの取引の、どの義務について判断できないのか」
を整理してから相談すると、必要な支援を判断しやすくなります。
更新時の注意
犯罪収益移転防止法上の本人特定事項の確認方法については、2027年4月1日から見直しが予定されています。 具体的な本人確認方法まで店舗マニュアルへ落とし込む際は、実施時点の最新情報を確認してください。警察庁も2026年7月23日に見直しを案内しています。

